EVって何の役に立つのか?
微積分の話の時に、「これって何の役に立つんですかねー」という質問が出た。
それに対して教授は、「この素人めが」という感じでいくつか答えていたのだが、見ている側としては弱いというか、正直それで微積分を積極的にやりたいと思わなかった。
この「何の役に立つんですかね-」という質問は非常に重要だと思った。
私も「EVの話をしたとき、いつか誰かの役に立つかも」なんてことを書いていたが、この番組を見ていて、そんなこといっていてはダメなのではないかと思った。なんの役に立つのか、これを伝えることこそが重要なのだ。
で考えてみた。EVを知っていると何の役に立つのか?
とにかく、思い当たるモノを全部書いてしまおう。
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1:ロードマップ的役割
EVを知っていると、写真を撮るときに何をどうしたらいいか見通せるようになる。初めての土地でも地形全体を見通せる地図があれば、なんとか様子がつかめるわけだが、EVというのは写真撮影で地図のような役割を果たしてくれる。
最近のカメラは優秀なので全自動のカメラ任せでも撮れることは撮れるのだが、撮影条件が悪くなると、突然白旗を出されてしまうことがある。
ちょうど、バスや車で目隠しされてどこかに連れてこられて、突然放り出されるようなモノだ。
あるていど地図が頭に入っていれば、いきなり放り出されてもなんとか目的の場所まで辿り着けるが、地図がないとどうにもならなくなってしまう。EVはこの地図のようなもので撮影のロードマップを示してくれる。
これまでなんどか書いてきたように上野駅の地上ホームのような、撮影条件の厳しいところでも、どうしたらいいか、なんとなく見えてくるという部分が大きい。
2:歩留まりが上がる
実はカメラを買って半年くらいは全自動モードで撮っていた。10枚に2,3枚くらいは撮れないのがあったが、残りの7枚でいいじゃないくらいに考えていた。ところが東北と北海道を大急ぎでまわらなければいけないという状況が発生。締め切りが近く撮り直しもできない。そんなときにかぎってうまくとれないものだ。しかもボツ写真を大量発生させてしまって、これじゃいかんと思ったのである。
通常、天気のいい場所ではカメラ任せで撮れることも多いのだが、ちょっと暗くなったり、室内だったりするとカメラまかせでは撮れない確率が格段に高まる。(撮れているように見えても、よく見ると被写体ブレになっていたりとか)
これを歩留まりと呼んだりするのだが、EV値を知っていると確実に歩留まりを上げることができる。
近くなら撮り直しできるような場所でも、遠くだったり、ラストランだったりで撮り直しできない状況というのもある。そんなときに、この歩留まりが決定的に重要になるのだ。
3:おもしろい
登山するときに地図が頭に入っているのと、いないのではおもしろさが違う。また地図があると面白いモノを見つける土地勘が働くようになる。逆だとちんぷんかんぷんでおもしろさどころじゃない。
さらにいろんなことが地図と結びつけて頭に入ってきやすくなる。EVという地図をもっていると、撮影の世界のことが裏で結びついているのがわかってきて、頭にはいってきやすくなるのだ。
例えば手ぶれ補正で、「このレンズの手ぶれ補正は3段くらい効く」といった話をカメラ屋の店員とかカメラに詳しい人から聞いたことはないだろうか?
これがEVと結びついているのだ。EV値1つは1段に対応している。光の量でいうとEV1つが2倍(あるいは1/2)の光量になる。
たとえば望遠レンズはその逆数が手ぶれ限界と言われている。300ミリのレンズだと1/300秒が手ぶれしないシャッター速度となる。3段効くというのは1/150→1/75→1/37.5となる。3段手ぶれ補正が効くとこんなに遅いシャッター速度まで手ぶれ無しで使えるということがわかる。
もう一つの例はシャッター速度の話。シャッター速度1/8の次は1/15、その次が1/30となっているのだが、これって不思議な感じがしないだろうか?
1/8の半分は1/16だし、その半分は1/32だ。1/15や1/30というのは昔の名残だそうで、昔は機械の精度も正確じゃなかったし1/16や1/32と書くよりは1/15や1/30と書いた方がわかりやすかったのでこうしたのだと思われる。しかし、カメラメーカーに確認したところ、2の倍数である1/16や1/32のほうが正しいとのことだ。
EV値というのはかならず2倍2倍の関係になっている。実際そのあとは
1/60→1/125→1/250→1/500→1/1000
となって、2の倍数とはつかず離れずでありながら、人間に覚えやすい数字となって続いていく。このように、バラバラの話がEVという糸で結びつけられる。
4:撮影条件は簡単な数字1つ覚えておけばいい
撮影場所のシャッター速度とか絞り、ISOで個別に覚えようとすると、なかなかたいへん、というか、この3つの数字を覚えていられる人ってあまりいないんじゃないだろうか? しかも組み合わせ次第でいろんな数値になるし、デジタルだと一度に何百枚も撮れるので実際に覚えておくのはほぼ不可能だ。
しかし、カメラに入ってくる光のEV値はたった1つの値である。地下鉄と上野駅地上ホームはどちらも室内なのでEVはだいたい6ぐらいだなーとか、あとは停まるときは列車が低速で入線してくるなーといった感じで、たった一つの値に収まる。
これによって全然違う2つの違う場所で、撮影条件的に共通点を見いだせたりする。
ちなみに、上野駅と地下鉄の2カ所を改めてチェックして見たら撮影条件は同じでいいことがわかった。上野駅だと1日1~2回しか撮影チャンスがないが、地下鉄ならいくらでもチャンスがあるので、撮影の練習ができたりする。
何度か書いているが、晴れだとEVが15、曇りなら12、朝夕が9で室内が6である。実際にはここを中心にプラマイ2~3くらいになるが、実際に自分で撮った写真を何枚か引っ張り出してきて、本当にこの範囲に収まっているのか確認するという作業をやってみると記憶に定着すると思う。
何百枚撮った写真であっても、晴れていたなぁとか室内だったなぁとかで覚えておけば、だいたいその場所のEV値が推定できてしまうのだ。あとは被写体の動きが速かったのでシャッター速度を速めにしたなぁとか、ピントを極限まで合わせたかったので絞りをしぼりこんだなぁといった違いだけを覚えておけばいいというわけだ。もちろんこのデータは次に撮るときに再利用ができる。
5:脳の訓練になる ボケ予防
EVにはちょっとめんどくさい計算もあったりで、左脳を相当使うことになる。構図を決めたりとか、きれいな写真を撮ろうとするのは右脳の作業だと思われるので、両方の脳を使ってボケ防止になる。
6:はったりがきく
クライアントや編集者と話していて、EVくらいはわかってるんだぜ、ということではったりがきくようになる。逆に知らないと、おどおどしてしまう。ひょっとすると、この部分が一番大きいかも知れないw
7:線引きできる
技術や装備が足りないから撮れない場所もあるし、どう頑張っても撮影が無理な場所というのも確かにある。そもそも物理的に無理なのか、あるいはどういう装備をすれば撮れるようになるのかの判断は意外と難しい。
クライアントに、室内から外を走る列車を撮って欲しいと頼まれたことがあった。しかし、これはまともに撮れないのである。その日は晴れていたので室外はEVが15くらいになっていた。一方室内はEVが6程度である。デジカメが撮れるEVの幅は6程度なので、EVの幅が9もあるような状況ではどう頑張っても撮れない。室内に露出を合わせると室外が白飛びになるし、逆だと室内が真っ暗になってしまうのだ。
もちろんデジタル処理で誤魔化すことは可能だが、画質が荒くなったり、きたない写真になってしまうのは避けられない(小さな写真なら使えるがメインとなる大きな写真には使えない)。このときは編集が2人居て、かたほうの編集者は多少写真のことを分かっていたようで何とかなったのだが、写真を知らない人というのはこういうのも平気で注文しようとしたりする。
しかし、上野駅13番線のように、装備と腕が足りずに撮れなかったというケースも確かにあって、そこの線引きができるというわけだ。
8:イメトレできるようになる
翌日の天気予報が晴れならEVは15程度が期待でき、シャッター速度が1/1000(EV=10)使ってもまだEVが5残るので、F:5.6の暗いレンズでも対応できるが、翌日の天気が曇りならEVは12程度しか期待できないので、F2の明るいレンズが必要になる。といったようなことを事前に予測できる。
明るいレンズが用意できないときはISOを上げないといけないなぁとか、流し撮りにするかなぁ、といったことを事前に想定しながら撮影できる。スポーツなんかでもイメトレが重要という話をよく聞くが、撮影でもイメトレできていると余裕をもって対応できる。
そんなわけで、ここ数年関わってきたことの中で、EVを知って役に立った話を手当たり次第、書いてみた。なんだか妙に必死な文章になってしまった感があるが、自分自身ライターや企画者として飯を食っていくために一番重要なことは人々のモチベーションをアップさせることなんじゃないかと最近思いだしているので、頑張って書いてみた次第。(感想などいただけると大変ありがたいです アホキ)
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そうそう、はったりは大事なんですよね。編集者に「こいつなら信用できる」と思ってもらわなければ仕事が始まりませんから。で、実力は作業中に補完するというw そうやって12年経ちました |∀・)
でもやっぱり本題からすれば、「おもろくなる」というのが一番大きいんじゃないかと思います。私は登山の前に、その土地のことを予習して、脳内登山をしておきます。安全のためでもありますが、何しろその方がおもろいのです。おかげさまで、EV値がそういうものに相当するんだろうことは分かってきたように思います。
他にも分かったことがあります。「何が分からないのか」です。
EV値ってそもそも何、という出発点が分かっていなかったのです。自分なりに推定してみましたが、地震でいう「震度」なのではないかと。地震にはマグニチュードがあり、震源からの距離があり、様々な要因が絡みますが、最も大事なのは、自分が今いる場所がどれだけ揺れるかだと思うのです。多分EV値と震度というのは、同じ考え方で出てくる数字なんだろうなと考えました。
先日書いた「運賃表みたいな表」、やっぱりあるんですね。
http://www.unami-a.com/kiho/exposure_value.shtml
これはISO100の場合だそうですが、ISOが変われば他の数値も変わるわけで、ああやっぱり震度だ、と思いました。違うかもしれませんが('A`)
| イノテツ | 2011/02/12 10:49 | URL |